開催報告…新しい時代の図書館研究会第5回研究交流会…武蔵野美術大学美術館・図書館

12月11日(土)に開催した新しい時代の図書館研究会第5回研究交流会の開催報告です。

開催日:2010年12月11日(土)
会場:武蔵野美術大学美術館・図書館
時間:研究会15:00〜17:00、懇親会17:00〜
参加費:無料(懇親会:1000円)
対象:図書館・博物館・美術館関係者、図書館建築関係者など
内容:
武蔵野美術大学美術館・図書館の図書館新棟の見学と、同図書館が目指している方向性について

プログラム:
15:00~15:10 挨拶&趣旨説明
15:10~16:00 会場館からの事例報告
16:00~17:00 施設見学
17:00~17:30 質疑応答&ディスカッション
17:30~ 懇親会

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12月11日(土)、第5回研究交流会を武蔵野美術大学美術館・図書館にて開催いたしました。
前回(第4回目)は、独自のユニークな企画で注目を集めている奈良県立図書情報館にお邪魔しました。約1年ぶりの開催となった今回は、今春オープンした武蔵野美術大学の図書館新棟を見学。40名を越える方々にお集まりいただきました。

■まず、本会の発起人である鈴木明(神戸芸術工科大学)より「新しい時代の図書館研究会」についての趣旨説明(註1)がなされ、その後、会場館である武蔵野美術大学美術館・図書館の本庄美千代さまより「美術大学図書館におけるICT活用事例紹介」という題で、同大の新棟建築にかかわる経緯および取り組みをご紹介いただきました。以下はその内容です。

2004年に新棟の建築が決まって以降、ポンピドゥーセンター公共情報図書館、カンディンスキー図書館、フランス国立図書館ほか国内外20館ほどの機関を見学し、参考にすべき点を把握した。武蔵野美術大学もポンピドゥー同様、美術館機能と図書館機能の融合が特色である。

新棟竣工と同時に、館の名称も変更され、美術資料図書館から美術館・図書館へと変更された。以前の名称は図書館のイメージが先行してしまうので、美術館を打ち出したいという意図である。合わせて、ロゴマークも新たに制作。デザインは佐藤卓デザイン事務所が担当。

建築のコンセプトとして藤本壮介氏から提案されたのは「書物の森」であった。天井まで書架で埋め尽くされ、それが渦巻き状に配置されているのが特徴。それによって、どこにもない図書館が出来上がった。現在、多くの見学者を迎えている。極めて特徴的な建築のため、図書館の根幹である配架計画をどうするかが課題とあった。特に高い書架によって視認性が確保できないため、向こう側には何があるのかをきちんとナビゲートすることができる館内サインが必要であった。この課題についても、佐藤卓デザイン事務所との協働によって、独自の館内サインを実現できた。なお、館内には美術作品名作椅子14脚を配置。

新棟の建設に際して、学習図書館機能と研究図書館機能をしっかりと区別して、サービスを提供したいと思った。

学習図書館機能としては、旧棟においては電気容量の制限もあって実現できなかったICT活用に取り組んだ。雑誌を除く全蔵書にICタグを導入、さらに関連書籍や関連イベントの検索が可能な「ブックタッチ」システムの開発によって付加価値を持ったICT環境を実現した。これらは初年次教育で効果を発揮するはずである。ただし、ブックタッチの開発はレファレンスの省力化が目的ではなく、ライブラリアンにはデジタルでできること以上の質の高いレファレンス・サービスが求められているということである。
なお、ブックタッチでは検索履歴の印刷も可能。

ポスターコレクションや貴重書・美術作品の表示が可能なインフォメーションボードシステム、および約350脚を所蔵している近代椅子のコレクションを形や色で分類・検索ができる仕組みも整えた。さらに、3万5千点の所蔵ポスターのうち、約2万点を新棟に移しICタグを実装。デジタル化によってこれまで検索できなかったポスター資料も検索可能となった。
これらは、美術大学ならではの検索システムである。

以上のような学習空間の整備の一方で、研究の場の創出も不可欠であった。
1F部分は造形研究センターと位置づけられており、貴重書と準貴重書のためのスペースとなっている。展覧会図録を集めた「カタログギャラリー」、絵本を集めた「絵本ギャラリー」
、本についての本を集めた「ブックギャラリー」が設けられている。教員および大学院生用の研究個室と研究スペースも配置され、図録や貴重書を用いた講義、研究に利用されている。研究スペースは教員にも大変人気であり、常に予約で埋まっている状態である。
研究スペースはガラス張りで外から見られるようになっており、貴重書室も一部中が見られるような作りにした。

これからの課題は、美術館資料・博物館資料・図書館資料・映像資料を組み合わせたアート・アーカイブの構築である。時代遅れにならないように、運営の仕組みに拡張性を保たせなければいけない。現在のICTはまだスタートでしかない。(註2)

■非常に丁寧な説明をうかがった後、いよいよ皆さんお待ちかねの施設見学へ。人数が多いので2つのグループに分かれての見学となりました。

エントランス入って正面から。
床のサイン。場所と蔵書量が一目瞭然。
「ブックタッチ」について解説中。
書棚の解説を聞く参加者たち。
地下の開架書庫。
上から撮るスキャナ。本を傷めないように。
十進分類を示す大型のサイン。
絵本ギャラリー。絵本は準貴重書扱い。
ブックギャラリー。本の本を集める。
大学院生用の研究個室。
深澤直人氏と開発したインテリジェント・カート。
入口付近の雑誌コーナー。天井に紫外線除けのシートがみえる。
展示コーナー。高精細画像もタッチパネルでみることができる。
天井まで書架が伸びる。

■施設見学の後は、質疑応答へ。図書館運営に関するもの、建築に関するもの、様々な質問が寄せられました。

図書館運営に関するもの:
○飲食については認めているのか?どの時期や時間に利用者が多いのか?
飲み物のみ認めている。テスト前や授業終了後が多い。
○図書館における環境への配慮はどうなっているか?
特に明文化されているものはないが、今後課題になってくると思う。
○学生は書籍をスキャンできるということであるが、著作権についてはどうなっているのか?
著作権についての教育は初めに学生にきちんと伝えているが、管理することは難しい。
○図録の書誌情報はどこから取得するのか?美大間での役割分担などはあるのか?
国立情報学研究所(NII)やOnline Computer Library Center(OCLC)からデータを取得できるが、アジア圏の書誌などは自前で登録している。
○美術館と図書館の一体運用とのことであるが、美術館と図書館どちらの資料にも成りうる資料の管理はどうなっているのか?
紙についての資料は図書館で扱っている。
○電子書籍についての対応は?それによって新しい空間が生まれるのか?
今のところの優先順位は低いが、『博物図譜』のように武蔵野美術大学特有の資料はデジタルアーカイブとして公開している(註1)。電子書籍が今後増えていくのかどうか、まだ曖昧であるので電子書籍に対応する空間を作ることも今のところ考えていない。
○アート・アーカイブを作る上で二次情報をどう作っているのか?
メタデータの方法論を、現代検討中である。
○展覧会資料等について目録を作成している機関があるのか?
NIIから書誌データを取得できる。ただし小規模美術館やギャラリーで刊行されている図録等はデータがないので自前での作業になる。

建築に関するもの:
○大きな窓が設けられているが、光の問題はどうなっているのか?
光の問題については認識している。天井にはポリカーボネートを置き、屋上の紫外線防止フィルムを貼っている。ただし長期間でみると本の焼け等が生じるかもしれない。
○新棟はかなりの面積を使っていて周辺の建物との距離も非常に近いが、大学で議論にならなかったのか?
新棟の場所はもともと裏庭のような場所。制作者にとって「土」はとても重要なので随分と議論があった。図書館としても階数が多いのは管理・費用の問題から好ましくはなかったので、高層とせず地上2層としている。
○保存環境についてどのように考えているか?
1Fは、貴重書・準貴重書を置いているので部分的ではあるが24時間空調としている。現在改修中の美術館では二系統の空調設備を念頭に置いている。

■図書館新棟から場所を移して、懇親会へ。武蔵野美術大学美術館・図書館のスタッフにもご参加いただき、質疑応答の時間に質問しきれなかったことなど、率直な意見交換がなされていたようです。末筆になりましたが、開催にご尽力下さいました武蔵野美術大学美術館・図書館の皆様、ご参加下さった方々に改めてお礼申し上げます。(文責:久慈達也)

註:
1)研究会の趣旨については下記リンクを参照のこと。
http://shintoshokanlab.kobe-du.ac.jp/node/10
2)以上の話題については『丸善ライブラリーニュース』第12号(通号163号)でも紹介されているのでご一読いただきたい。
3)武蔵野美術大学では、荒俣宏氏旧蔵コレクションを中心とした18世紀以降の博物図譜資料のデジタルアーカイブ化を実施。その成果は同大の展覧会にて公開された。
http://www.musabi.ac.jp/library/index.html

関連記事:
○新しい時代の図書館研究会第5回研究交流会…武蔵野美術大学美術館・図書館
http://infolib.kobe-du.ac.jp/2010/11/13/42899/
○新しい時代の図書館研究会第4回研究交流会…奈良県立図書情報館
http://shintoshokanlab.kobe-du.ac.jp/node/34317
○開催報告…新しい時代の図書館研究会第3回研究交流会
http://shintoshokanlab.kobe-du.ac.jp/node/19862
○新しい時代の図書館研究会第3回研究交流会…せんだいメディアテーク
http://shintoshokanlab.kobe-du.ac.jp/node/16493
○開催報告…新しい時代の図書館研究会第2回研究交流会
http://shintoshokanlab.kobe-du.ac.jp/node/7232
○新しい時代の図書館研究会第2回研究交流会…多摩美術大学図書館
http://shintoshokanlab.kobe-du.ac.jp/node/4495
○新しい時代の図書館研究会…第1回研究交流会を開催
http://shintoshokanlab.kobe-du.ac.jp/node/33
○新しい時代の図書館研究会について
http://shintoshokanlab.kobe-du.ac.jp/node/10

12/17/2010