ネクスト・プラットフォームとして

本展の狙いは、「着想(アイディア)の獲得」をテーマに集めたデザイン関連書籍やwebサイトを示す一方で、現代の情報環境に適応した美術大学の情報プラットフォームの在り方を探ることにある。これまでオンラインで活動してきた「アート&デザイン情報図書館」を現実の空間に落とし込む際に出てきたキーワード、それが「キュラトリアル」であった。

展覧会や講演会情報を集める「アート&デザイン情報図書館」の目的は、図書館の「次」の機能を実践の中から紡ぎ出すことであったが、いざ実際の活動を振り返ってみると、そもそもの出発点を図書館に置くべきかどうかという点が疑われてきた。図書館という言葉には、本を借りるところという意味合いがどうしても付きまとう。そのことが思考の足枷となっているように思われた。

今、私の頭の中にあるのは「図書館とはどんな場所だろう」という問いではなく、「何かを生み出すために必要な情報はなんだろう」という問いである。したがって、「何かを生み出すために必要な情報を集めた場所」を作りたいと思っている。その目線で世界を見渡すと、図書館か博物館かという差異も些細なことである。書籍、オブジェ、さらにオンラインの情報から必要な情報をなんでも集めるという姿勢をもち、それらを提示する空間。それをどう呼ぶべきかわからなかったので、今回は便宜的に「キュラトリアル・ライブラリー」と名付けた。理念においてもっとも近しいと感じるのは、陶芸家・濱田庄司が後進育成のため、自らが作陶の参考にした文物を公開した「益子参考館」(デザインミュージアム)である。

私が思い描く情報プラットフォームでは、検索とブラウジングという従来の図書館がもっていた優れた役割に加えて、展示(プレゼンテーション)機能が重視されている。現代の情報環境において、キーワード検索は不可欠であるし、書架をそぞろ歩くこと(ブラウジング)で得られる知見は多い。だから、それは否定しない。ただ、これまで図書館に欠けていた「意見の表明によるコミュニケーション」をそこに加えたい。現実の世界を前に、自分たちがどう考え向き合っているのかを示すこと、自分なりの世界の見方をモノの展示を通じて提示することがキュレーションだと私は考えている。だからこそ、観覧者との静かな対話が生まれ得るものだ。ワークショップ型の展示であれば、なおさら強く考え方を共有することができるだろう。不完全かもしれない一つの考え方をこちらから提示してみることによって、プラットフォームを媒介に新たな議論が生まれ、そこから何かが育まれることを夢みている。その意味では、貴重書や映画特集とは異なる論理で、展示を組み立てる必要がある。

「キュラトリアル・ライブラリー」の展示空間では、1)資料とモノのつながりの回復、および、2)情報を探す際の身体性の回復、が目指されている。これらは現代の情報環境に対する私の危惧を反映している。文字情報とモノの両方が並んで置かれているのが私たちの日常の姿だろう。キッチンには料理の本が置かれるだろうし、不慣れな道具には解説書が必要だ。しかし、公的な「館」において、これらはなぜか別々に扱われる。管理の都合というならば、展示という単位において書籍とモノの混在を特別に実現できないだろうか。また、今日、調べ物にはキーワード検索が一般的になっているが、それは同時に限界も抱えている。コンピューターネットワークにない単語、つまり全く未知のキーワードは調べることはできないし、検索結果は問いかけに対する単線的な返答にすぎない。そして入力するキーワードも己の想像力の範囲内に偏りがちになる。

それに対して、私が作り出したい状況は、大航海時代の冒険博物学者のような役割である。彼らは遠い異国に出かけていって土地を猟歩し、未知の情報(現物資料や伝聞)を自国に持ち帰る。その人の経験も含めてとても豊かな情報がそこにある。対して、図書館という場所は、登録博物学(分類学)者的な立ち位置だろう。デジタル化によってなおさらその性格が強まっているようにみえる。だからこそ、必要な情報を自分の足で探し歩くこと、つまり身体感覚をもって情報に触れる、そのような情報との出会い方を取り戻したい。文字情報とオブジェ、オンライン情報の間を行き来しながら、森でキノコを探すように「情報を採集する空間」が理想である。

以上を要約すると、「キュラトリアル・ライブラリー」とは、対話の道具であり、かつ採集地としての展示空間を中核にもつ図書館ということになるだろう。あるいは、本が中心のミュージアムと言い換えてもよい。どんな名称をつけようとも、コンテンツの形を問わず、必要な情報の在処に柔軟に触手を伸ばしていくことが重要だ。

実際にどんな活動がありうるのかはまだはっきりとは私も掴みきれていない。けれども、幾つか考えていることはある。複数の展示空間をそれぞれの司書(キュレーター)がそれぞれにリサーチを重ねて集めた情報を提示すること、その展示は半期程度で組み替えられること、もっとも注目を集めた展示は継続されること、展示のための書籍は表紙も残しバーコードも貼らない、展示された本は展示後も一つにまとめられ保管されること(そこに雑貨も扱う書店との違いも現れる)、「情報を集めた場所」であると同時に「情報が集まる仕掛け」も持っていたい等々。

「キュラトリアル・ライブラリー」は未だ確固たる概念ではないが、本展やその後の実験を踏まえて、来場者と議論を重ねることで徐々に形成されていくものと思う。「ネクスト・プラットフォーム」のおぼろげな形から共に考えてくれる人が現れることを期待して。

本展企画者 久慈達也

※本展HPに掲載のない書籍も会場には展示されています。
※本展HPでは関連製品の紹介はありません。